
The Seer / SWANS
Artwork : Simon HenwoodLabel : YOUNG GOD
Country : U.S
Released : 2012
ニューヨークのカルト的暗黒ロックバンド2012年作。一応パンクの括りらしいけれど、ここまで個性が強いとジャンル分けは最早不毛で「SWANSはSWANS」で良い様に思う。これ以前の作品は最初期の2枚(80年代)しか聴いた事が無いんだけど、基本的な路線はそのままに深みが増していて、ほんのりと温もりの様なものも感じられる。どす黒い暗闇の中で只管反復されるビートと呪術的歌詞。そしてその先で起こる何気にドラマティックな展開。2枚組なので通して聴くのは中々難しいけれど、1曲毎の完成度も高いので、つまみ食いでも全然OK。2分台から30分台まで曲の長さはバラエティに富んでいる。
もの凄く個人的な話だけど、昔実家で犬が飼われていて、最初の数年はヨークシャーテリアの母犬(A子)とその娘(B子)の2匹だった。ある年、オスのマルチーズ(C雄)が新たに加わって3匹になり、始めはまだC雄が幼犬だった事もあって3匹で仲良くしていたんだけど、C雄が大きく成るにつれ力関係が崩れ始め、C雄がB子を虐める様になってしまった。
私は年に1回程度しか帰省しないんだけど、或る日実家に帰ると、B子の様子が明らかにおかしくなっていた。去年までは我れ先に飛びついて来ていたのだが、1年振りに会ったB子は、私の足に纏わり付いている2匹から一歩引いた所で微かに鳴き声を上げながら恨めしそうな顔でこちらを見つめるばかりで、構ってやろうと近付くと後ずさりする始末。どうやらC雄に睨みを利かされてすっかり怖じ気づいてしまっている様だ。それではとC雄の目を盗んで構ってやろうとすると、頭と耳と尻尾を伏せながら、まるで人間が卑屈な笑みを浮かべる様に口角を釣り上げ “ニイッ” と歯を覗かせるのである。初めてそれを見た時、率直に私は「気持ちが悪いなあ」と思ったのであった。
それからまた1年経ち実家に帰省すると、B子は目は虚ろ全身真っ白抜け毛だらけのまるでゾンビの様な姿で、起きている間は徘徊老人の如く家の中をグルグルと歩き回っていた(歩き回っていないと体中が痛むらしい)。両親の話に拠るとリンパの巡りが悪くて云々と云う事だったのだけれど、それはC雄に虐められている事に因る心的ストレスが原因なのではないのかと意見しても「でもお医者さんが言うにはリンパの巡りが〜」と話が噛み合ず一向に状況が改善する気配はなかった。更に1年程経過した後、B子は母親のA子よりも早く他界したのであった。因みにC雄が来る以前はB子がA子の邪魔ばかりしていて、ストレスが溜ったA子がその辺に在るものに当たり散らしている光景を何度も目撃していたので、素直にB子には同情出来ない部分もあった。ストレスを外に発散していた母親とは対照的に、娘のB子は内側に溜め込んでしまっていたのだろう。ともあれ、隔離した方が良いと云う提案も聞き入れてもらえず、C雄に怯えながら死ぬまで過ごさなければならなかったB子の心情は察するに余りある。
「The Seer」のジャケットを眺めていると、あの時のB子の卑屈な顔が蘇って来て、何とも言えない複雑な気分になるのである。
明度:★
重度:★★★★★
温度:★★★